再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「……さっきのこと、なんだけど」
そう口にしたとき、航くんのスマホが振動する音が車内に広がり、私は肩を震わせた。
「悪い、ちょっと待って」と航くんは振動し続けるスマホを手に取り、画面を確認する。
そして小さく息をつき、「翼かよ」とこぼした。
その瞬間、私は咄嗟に前のめりに航くんの方を向いた。
「翼くんからなの? 電話だよね? 早く出なよ!」
私の急かすような言葉に航くんは眉をしかめ、不機嫌そうに口を開く。
「いいよ。どうせ大したことじゃないし。今はこっちのほうが大事だろ。紗菜こそ、早く言いかけたこと言えよ」
「やっ……」
航くんが私の手を掴んできて、私は思わず彼の手を振り払ってしまった。
そんな私の態度に航くんは驚いた表情を見せ、私は慌ててシートベルトを外しながらごまかす。
「あっ、ほら、私もう帰るから、早く電話に出て。送ってくれてありがとう」
「おい、紗菜」
「じゃあ、翼くんによろしくね!」
「待てって、紗菜!」
引き留める航くんの声を背に私は車のドアを開け、降りた。
そして、逃げるようにマンションに向かって早足で歩き出す。
さっきまでの私だったら、電話越しでもいいから翼くんと話したいと思っただろう。
10年の時を超えて初恋の人と話すことができるなんてまさに私の大好きなロマンティックな状況だし、たくさん話したいこともあったから。
でも、今の私は相手が翼くんであっても、何を話したらいいかわからなかった。
後ろめたいことなんてないのに、話しづらいとさえ感じた。
それもこれも、航くんのせいだ。突然、キスなんてするから……。
まとまらない気持ちのまま自分の部屋に帰宅した私は、そのままベッドにダイブした。