再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
川崎さんがコーヒーをカップに注ぎながら話しかけてくる。
「どう? ここの雰囲気には慣れた?」
「はい、少しずつ慣れてきました。でも仕事はまだまだ未熟なので、お役に立てるようにもっと頑張りたいと思ってます。瑠花にもお世話になりっぱなしで、毎日感謝してます」
「最初は覚えることがたくさんで大変だろうけど、わからないことはどんどん聞くといいよ。瑠花も梶原さんのことを気にかけてるし、力になりたいって言ってたから。営業や企画のことならいつでも俺に聞いてもらってもいいし」
「はい。ありがとうございます。頑張ります」
瑠花以外にも味方がいてくれることに安心して、私は頬を緩ませる。
「俺も今まで以上に頑張らないといけないな」
「え?」
「元々ここにいるメンバーもいい仕事する人は多いけど、今、瀬戸の存在がすごくいい刺激になってるんだ。勝ち負けの仕事ではないけど、さすが海外にいたこともあって瀬戸の能力は目を見張るものがあるし、それに負けないように俺ももっといい空間を作っていきたいと思ってるんだ」
「そうなんですね」
川崎さんは社長賞を取るほどの実力者だ。
その川崎さんにここまで言わせる航くんは、本当に才能があるのだろう。
航くんが今まで関わってきた案件を見ながらその凄さは感じてはいたけれど、同じ仕事をしている人に言わせるほどなのだ。
私の言葉が励ましになるかわからないけれど、少しでも自信に繋げてもらえればと川崎さんに素直な気持ちを伝える。
「柚宮カフェのリフォームって川崎さんが手がけたんですよね」
「あぁ、うん。知っててくれたんだ」
「はい。瑠花に教えてもらって、たまに行くんです。初めて行ったとき、本当に感動しました。カントリー風の雰囲気がすごくあたたかくて落ち着くから、私、すごく好きなんです」
「そうだったんだな。ありがとう。店長からは好評だと話を聞くことはあるけど、お客さん目線からの感想を直接聞くことはなかなかないから嬉しいよ」
川崎さんは私の言葉に嬉しそうに笑ってくれた。
自分が作り上げたものを認めてもらうのは、想像以上に難しいことなのかもしれない。
それなら、私は好きなものは好きだと伝えたい。
「川崎さんが作る空間、これからも楽しみにしてます」
「ありがとう」
川崎さんと顔を合わせて笑い合った瞬間、背後から「梶原さん」と聞き慣れた声が聞こえてきた。
返事をして振り向くと、無表情の航くんがいた。