再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
私を見据えるようにまっすぐ見てくる彼と目が合った瞬間、キスのことを思い出し心臓が早鐘を打ち始める。
……落ち着け、私。
気持ちを落ち着かせるように胸に手を当てたとき、さっき部長のデスクで話していたときとはどこか雰囲気の違う笑みが彼に浮かんだ。
「川崎さん、お話し中のところお邪魔してすみません」
「いや、いいよ」
「梶原さん、悪いんだけど頼みたいことがあるから、こっち戻ってきてもらえるかな」
「……あ、はい。わかりました」
頷くと航くんは「よろしくな」と笑顔で言い、踵を返した。
その笑顔は完全に表向きのもので、土曜日のできごとが一切なかったような彼の態度に、私はホッとしたような寂しいような不思議な気持ちになった。
……いやいや、寂しいって何……?
不意に浮かんだ感情に私は戸惑い、考え直す。
航くんがいつも通りなら私もいつも通りに過ごすことができるのだから、これでいいんだ。
わざわざ呼びに来たということは本当に急ぎの作業があるのかもしれないと、私は仕事モードに気持ちを切り替えた。
「すみません、川崎さん。失礼します」
「うん。仕事頑張って」
川崎さんに挨拶をしてからコーヒーを入れたカップを手にし、私は先にデスクに戻っていく航くんの後を追った。