再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
残業時間が1時間過ぎたところで、きりがいいところまで作業が終わった。
明日の朝一でおかしいところがないかを確認して、瑠花にも確認をお願いしよう。
その後は製本作業に戻れるといいなと思ったとき、営業の若い子が航くんのところにやってきた。
「瀬戸さん、お疲れ様です」
「お疲れ様」
「このプランについて意見をもらいたいんですけど、今お時間いただけますか?」
「あぁ、もちろん」
航くんは一切嫌な顔をせず、身体を向けて聞く体勢を作る。
私よりも若い子が航くんのところにやってくる姿は何度か見ている。
時には航くんよりも先輩の人が相談に来ることもあり、航くんが企画営業部の仲間から信頼されているのを感じる。
先週は仕事に必死で相談の内容を聞く余裕はなかったけれど、どんな話をしているのか興味が湧いて、私は資料を確認しているふりをしながらこっそり耳を傾けた。
「この照明の電灯って蛍光色だよな。この位置に置くと明るすぎて店舗の雰囲気を壊すんじゃないか? もっとやわらかい色がいいと思うけど」
「やっぱりそう思いますよね……。僕も実は明るさのことが気になっていたんですけど、これ以上のものはないし、何よりもオーナーさんがこの照明のデザインを気に入っていて……。メーカーにも問い合わせてみたんですけど、電灯の種類も1種類しかないんです」
「今の山元(やまもと)の考えは?」
「えっと……もうこれ以上は……。オーナーさんは多少明るくても仕方がないと了承しているので、妥協してこのまま進めるしかないと思ってます。ただ、確定する前に瀬戸さんにも意見をいただきたいと思って」
「そう」
自信がなさそうな山元くんの言葉に航くんは短く頷き、資料を再度めくる。
そして、右手で3を作った。