再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「ちょっと、近っ……」
「素直になればいいのに。俺のことが気になって仕方ないって」
「……は?」
周りに聞こえないくらいの声で、耳を疑うような言葉をかけられる。
「今日の朝もオフィスに入ってきてから俺のことばっかり気にしてただろ。さすがに仕事中は仕事のことでいっぱいだったみたいだけど、ろくに話も聞かずにあんな中途半端に帰って、昨日はずっと俺のこと考えてたんじゃないのか?」
「なっ……!」
図星過ぎることを言い当てられて私は言葉を返すことができない。
私の反応に対して航くんに満足そうな表情が浮かび、やっぱりあのキスはからかわれていただけなのだとはっきり気づいた。
このままだと予想していた通り、航くんのペースにのまれてしまう。
そんなの、悔しすぎる。
周りは席を外している人が多いとはいえ、誰に聞かれてもおかしくないような場所だし、あのときの話を同僚に聞かれて変な誤解をされたら困る。
私は感情を圧し殺して、冷静に言う。
「別に瀬戸さんのことなんて考えてません。考える理由なんてありませんから」
「あるだろ?」
「ないですってば」
「ふーん、あっそ。そんな反応か。つまらないな」
「つまらないとか言わないでよ! 私はおもちゃじゃないっ!」
こんなふうに言われてしまえば悩んでいた時間を棒に振ったように思えて、カッとした私は思わずデスクを叩いて立ち上がる。
すぐにオフィスに残っていた数人からの視線が飛んできていることに気づき、私は我に返った。
雰囲気を察してくれたのかみんなの視線はすぐに逸れたものの、居づらくて、私はオフィスの外に足を向けた。