再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
誰もいない廊下を歩く。
結局、航くんのペースにのせられていたなんて、私は本当にバカだ。
今日1日ずっと、航くんは何事もなかったように飄々とした表情をしながら、私の反応を観察してほくそ笑んでいたに違いない。
いつものようにからかわれただけなのに、いつも以上にイライラしてしまうのはどうしてだろう。
怒りが収まらなくて拳を握りしめたとき、後ろから足音が聞こえてきた。
「紗菜、待てって。なんでそんなにカリカリしてるんだよ」
「知らない! っていうか、会社で名前呼ぶのやめてよ! 追いかけてこないで!」
追いかけてきてまで私の反応を見たいらしい航くんのデリカシーのなさに、私はさらに彼から逃げるように足早に歩く。
でも、当然コンパスは彼のほうが長く、すぐに追いつかれてしまった。
「別に名前呼んでもいいだろ? 俺と紗菜の関係がバレたってなんの問題もないし、隠す必要もない」
「関係って、誤解されるような言い方しないでよ!」
「誤解って? キスするような仲だって?」
「っ!」
まさかこんなにあっさりキスしたことを口にしてくるなんて思わなくて、息をのむのと同時に足を止めてしまう。
航くんも私よりも一瞬遅れて足を止め、数歩先で振り向いた。
彼に見られていると思えば、顔が熱くなるのを感じる。
「どうして……」
「は?」
「どうして、あんなことしたのっ……」
絞り出すように言葉を発すると、航くんはあっけらかんと答えた。
「そんなの、したかったからに決まってるだろ」
「……え?」
「意外だったな。キスしたこと、そんなに気にしてくれてるとは思わなかった」
「何、それ……」
戸惑う私に対して、航くんはどこか嬉しそうに唇の端を上げて笑みを浮かべる。
「それって俺のことが気になり始めてるってことだよな? ほら、アマノジャクしてないで、さっさと認めろよ。俺のことが好きだって」
「ばっ、バカなこと言わないでよ! なんで私が航くんのこと好きにならなきゃいけないの。絶対にありえないから!」
航くんのからかうようなセリフに私の怒りがピークに達し、思わずケンカ腰の言葉を投げてしまう。
目線を上げて航くんを睨むと、彼の視線とぶつかった。
一瞬にして彼から笑みは消え、その目は細められていて冷たい。
怯んでしまい、私は小さく肩を震わせた。