再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 
無意識にため息をついて資料に向き合ったとき、「お疲れ様です」というかわいい声が耳に入ってきた。


「瀬戸さん、少しお時間いいですか?」

「あぁ、いいよ。どうかした?」

「この書類なんですけど」


キラキラした笑顔で航くんに話しかけてきたのは総務課の子だ。

私は接したことはないけれど、私のふたつ下で、見た目だけではなく性格もすごくかわいい子らしい。

なんとなく気になって言葉を交わすふたりを横目で見ると、さっき私と話したときとは違い、航くんには笑みが浮かんでいた。

なんとなくいけないものを見てしまった気分になり、私はすぐに資料に目線を戻す。

話の内容にもよるけれど、仕事中の彼は男女問わずこうやって笑顔を見せることが多い。

私にだけ笑顔を向けてくれないことは明らかで、こういう光景を毎日のように見ていると心に小さな穴が空いたような寂しさを感じる。

そんな気持ちがまた襲ってきそうなのを抑えながら、案件資料と昨日作成した見積書、納品場所などをひとつずつ確認し、発注作業を進めていく。

……最初のうちは私を振り回すようなことをしてきた航くんが悪いんだと思っていた。

でも、日が経つにつれて私も感情的になりすぎたかもしれないと思うようになった。

低くてこぼれ落ちるような声だったからはっきりとは聞こえなかったけれど、「そんなに嫌うなよ」という言葉が航くんの口から出てきたと思う。

感情的になったからといって、そんなふうに思わせてしまう言葉を口にしてしまったことに罪悪感を覚えた。

……きっと、傷つけた。

キスとは言っても少し唇が触れただけだし、航くんにとってはどうせただの冗談だったのだから「からかうのはやめてよ」と笑い飛ばすだけでよかったんだ。

翼くんを気にするような言葉を口にしていたことは気になるものの、私が翼くんの名前ばかりを出すのを彼があまり快く思っていないのは昔からだし、今では感情は落ち着き、以前のように彼と話したいと思うようになっている。

昔ケンカしたときは、どうやって仲直りしてたんだっけ……。

どうやったらまた笑い合える?

考えても答えは見えず、まるでゴールのない迷路に迷いこんだようだった。
 
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