再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 
気持ちを落ち着かせようと慌てて深呼吸をしていると、ちょうどいいタイミングで翼くんが私の隣のデスクに立ち止まった。

私を窺うように20センチほど上から降り注いでくる視線に、私は軽く頭を下げて笑顔を向ける。


「瀬戸さん、おはようございます。今日からアシスタントをさせていただく梶原(かじわら)です。よろしくお願いします」


緊張のあまり声がひっくり返ってしまいそうになりながら挨拶をすると、翼くんは笑みのなかった表情に小さく笑みを浮かべた。

そこには私の記憶の中にあるやわらかさはなく、この表情は翼くんにとってのオフィスモードなのだろうと思った。


「おはようございます。瀬戸です。梶原さん、これからよろしくお願いします。力になってもらえると助かります。そこで早速だけど、作業を任せてもいいかな」

「あっ、はい」


すぐに使えるようにとデスクの上に置いていた手帳とペンを手に取り、メモを取る準備をする。


「ここにある資料を案件ごとにまとめてもらえるかな。こっちの山はおおよそまとまってると思うけど、こっちの山はバラバラになってるから、右下に書いてある案件の内容ごとにまとめて製本をして、案件リストも作っておいて。具体的なやり方は任せるけど、あとで確認したときに見やすくしておいてもらえると助かる」


翼くんはデスクの下に置いてある資料を指差しながら、端的に作業内容を口にしていく。

それに対して私は相づちを打ちながら、メモを取る。


「まとめた後でもまとめながらでもいいけど、資料の内容も見ておいて。仕事をする上で図面に慣れておいてもらいたいし、図面は読めたほうが楽しいと思うから。わからないことがあったら、すぐに聞いて。この作業の期限は特にないけど、近いうちに他の仕事も任せることになるし早めがいいかな。あとこれ、必要なら使って。よろしく」

「わかりました……」


指示を出した翼くんは彼のデスクに座り、パソコンに向き合って仕事に取りかかってしまった。

それに対して、挨拶もそこそこに降ってきた仕事の山と渡された電子辞書に、私は戸惑いを隠せなかった。

というのも、足元にはとてもひとりでは運べないほどの資料の山があるのだ。

自分のデスクを片づけているときに何の資料だろうと気になっていたけれど、まさか自分が関わることになるとは思っていなかった。

でもこれが私の仕事なのだと、思い直す。

それに今は業務中で翼くんとの再会に浸るような時間ではないし、幼なじみだからといって甘えることもできない。

翼くんを前につい緩んでしまっていた気持ちを引き締め、彼を見習って仕事モードに頭を切り替える。

早速、私はデスクにつき、言い渡された作業を始めた。
 
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