再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
少しずつ速くなっていく鼓動を感じていると、航くんがテーブルの真ん中に置いてあった枝豆を私の目の前まで引き寄せた。
「これ、食っとけ。いいな?」
「あ、はい……」
どうして枝豆なのかなと思いながら頷いたとき、部長が私と航くんの名前を呼んだ。
「はい」と私たちの返事がシンクロする。
「おや、息ぴったりじゃないか。梶原さんと瀬戸くんはうまくやってるみたいだな。距離感も近いし、仲よさそうでよかったよ」
満足げに頷く部長に対して愛想笑いしかできずにいると、隣から航くんの声が聞こえてきた。
「はい。仲良くさせてもらってますよ。な、梶原さん」
「は、はい……」
呼びかけられて航くんの方を見ると、営業スマイルが私に向けられていた。
明らかにこの場をやり過ごすための笑顔だけど、普段は見せてくれない表情になぜか心臓が跳ねる。
彼の視線が部長に向く。
「梶原さんは丁寧に仕事を進めてくれますし細かいところにも気を配ってくれるので、すごく頼りにしてます」
「そうかそうか。仕事とはいえ簡単に人間関係がうまくいく保証もないから、ウマが合ってよかった」
「彼女のアシスタントはとてもやりやすくて仕事も進むので、これからもぜひ彼女に力になってもらえたらと思ってます」
「瀬戸くんの仕事の効率が上がるのはいい傾向だな。梶原さんも力になってあげなさい」
「はい……」
航くんが仕事のことを誉めてくれたのは社交辞令に違いないのに、自分を認めてもらえたみたいで嬉しかった。
頬や耳が火照っている気がして、グラスで冷やした手を自然な振る舞いで頬にあてる。
航くんの何気ない言葉や表情に対して、仕事の場なのにどうしてこんなに心が揺さぶられるのだろう。
話題は転換し、航くんは私が入っている会話のグループとは違うグループの会話に入った。
部長たちと会話をしながら、湧き上がる妙な気持ちを飲み込むように私はお酒を飲む。
でも、どんなに飲んでも気持ちは落ち着かなくて、酔うこともできなくて、それを隠すように私は枝豆を次々と口にした。
航くんがなぜ枝豆を勧めてきたのかはやっぱり不思議だったけれど、枝豆は柔らかすぎず塩加減も絶妙でおいしかった。