再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
店の前で企画営業部の人たちと解散した後、みんなとは帰宅方向が反対だったため、私は一人で歩き出した。
1つ目の横断歩道で赤信号に引っかかり、車の流れやランプの光、街の情景を眺めながら待っていると、後ろから「梶原さん!」と声をかけられた。
振り向くと企画営業の青木(あおき)さんが笑顔で私の後を追ってきて、私の横で立ち止まった。
「よかった。追いついた」
「青木さん、お疲れ様です。青木さんもこっちですか?」
「いや、違うんだけど、梶原さんが一人で帰ってるのが見えたからさ。危ないし、送るよ」
「あっ、いえ! もう時間も遅いですし、明るい道を通って帰るので一人で大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「いやいや、遅い時間だから送るって言ってるんだよ。女の子を一人で歩かせるのは心配だし、送らせてよ」
「でも、遠回りになるのは悪いですし……」
「大丈夫大丈夫。ぐるって回ればすぐだし、遠慮しないで。ほら、信号変わったよ」
「ひゃっ……」
肩に腕を乗せられ、強引に身体を引き寄せられる。
歩行者用の信号機から流れてくる軽快な音楽のリズムに合わせるように青木さんは歩き出し、私もつられて歩き出した。
私もそうかもしれないけれど青木さんからお酒の強いにおいがして、かなり酔っているのではないかと感じた。
想像以上に力が強くて、抜け出すこともできない。
このまま言葉に甘えたほうがいいのかなと思いながら横断歩道を渡り終えたとき、「青木さん」という声とともに肩に乗っていた重さがなくなる。
ハッと振り向くと、航くんがいた。
「あれ、瀬戸? どうしたの」
「青木さんこそ、どうしてこっちに? たしか逆方向ですよね?」
「いや、梶原さんを送ろうと思ってさ」
「あぁ、そういうことですか。それなら俺が送りますよ」
青木さんから離すように、航くんの手が私の腕を掴む。
「瀬戸が送るってどうして」
「俺、梶原さんと同じ方向なんですよ。青木さん、あまり遅くなると奥さんに心配かけますよ」
「……奥さん……? ……あぁ、そうだった。それはまずい、うん、まずいな」
青木さんはすぐに納得し、「じゃあ、梶原さんのことはよろしくな!」と言い残し、あっという間に去っていった。
疑っていたわけではないけれど、あの様子だと私を送ると言ってくれたのは心からの親切だったようだ。
青木さんの去っていった方向を見ていると、航くんが私を呼ぶように腕を引き、そのまま離した。
「梶原さん、行くよ」
「あっ、はい……」
私を促すように先に歩き出した航くんの背中を、慌てて追う。
もう周りに同僚はいないのに名前で呼んでくれないんだ……。
そんな小さなことが心に引っかかった。
1メートルも離れていないのにその背中は遠く感じて、胸が小さく痛んだ。