再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
考えながら歩いている間に、あっという間にマンションの前に到着した。
「航くん、送ってくれてありがとう」
「いや。部屋に入るまで気は抜くなよ。あと、酒抜けるまでは風呂に入らないこと」
「うん、わかった」
航くんが意外にも心配性なことを知り、頬を緩ませながら頷く。
「紗菜」
2週間ぶりに呼ばれた名前に心臓が音をたてる。
「簡単に誰にでも気を許すなよ。お前は昔から危なっかしいんだから。いいな?」
「……うん」
子どもじゃないのだから知らない人についていくわけはないのにと思いながらも、まっすぐな視線に私はただ頷いた。
そして、航くんが「じゃあ、おやすみ」と今日1日の終わりの言葉を口にする。
それと同時に寂しさが襲ってきて、私は反射的に彼の名前を呼んでいた。
「あのっ、航くん……」
「ん?」
「……あっ、えっと……」
航くんは口ごもる私をまっすぐ見たまま、次の言葉を待ってくれる。
こういうふうに、何だかんだ言いながらも私の話を聞いてくれようとするところは、昔と変わっていない。
このチャンスを逃せば、きっとまた話しかけられなくなる。
思い切って、「前は言いすぎてごめんね、仲直りしよう」と心の中で何度も練習していた言葉を言おうとするのに、早く言わなければと焦れば焦るほど、喉の奥で引っかかったように言葉にならない。
「何?」
「……あの、えっと……」
やっぱり言葉が出なくて自分の胸元に拳をあててうつむくと、航くんの手が私の頭に優しく乗った。
彼の行動に肩を震わせてしまうと、私の目線に合わせるように彼は軽く身体をかがませ、私の顔を覗き込んだ。
「どうしたんだよ、紗菜。もしかして気分悪い? 飲みすぎたんじゃないのか?」
「あっ、違……っ、違うの」
「そう。ならいいけど、心配させるなよ」
「……ごめん、ね」
「いや。いいよ」
航くんが呆れたように小さく息をつき、私の頭から手を離す。