再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 
「ほら、何ともないならさっさと入れよ。今日は少し冷えるし、早く帰って温かくしろ。俺も帰るから」

「あっ、待って!」


私はすがりつくように彼のスーツを掴んだ。

胸が苦しくて涙が浮かぶのをこらえながら、航くんのことを見上げる。


「紗菜? さっきからどうしたんだよ」

「あの……ごめんね、航くん」


航くんは突然謝罪の言葉を口にした私を見ながら、眉をひそめて怪訝な表情を見せる。


「それは何に対しての謝罪?」

「……3週間前のこと……、私、航くんに酷いこと言っちゃったから、ずっと謝りたいと思ってたの。航くん、あのときのこと怒ってるんだよね……? でもね私、航くんのこと嫌いだなんて思ってないよ? だから、仲直りしたい……です」


ちゃんと伝わっているか不安に思いながら一言ずつ伝えると、しばらくして航くんの表情がふと緩んだ。

ゆっくり口を開く。


「俺が怒ってるって、どうしてそう思った?」

「それは……そっけないし、避けたような態度とるし、全然笑ってくれないし……前と違うから。……航くんと言い合えないの、寂しいよ」


逆に質問され素直に答えると、航くんが息をついた。

そして彼の手が目の前に現れ、ハッと気づいたときには額に小さな衝撃が走っていた。


「いたっ! なっ、何するのっ」


思わず声を上げて航くんを見上げると、彼はからかうときに見せる表情で私を見下ろしていた。


「バーカ。別に怒ってないって。そんなことで怒るわけないだろ。紗菜がぴーちく言ってくるのには慣れてる」

「……へ?」

「俺は紗菜の言う通り、近づかないようにしてやってただけ。そろそろ気が済んだだろうと思ってたけど最近は忙しかったし、話すタイミングがなかった。怒ってるってのは紗菜の気のせいだろ」

「……気のせい?」

「そう」


予想していなかった彼の言葉に思考が一瞬止まってしまう。

航くんは「近づかないで」という私の言葉を実行していただけなの?

たしかに最近の航くんは案件をいくつも抱えていることもあって、いつも忙しそうにしている。

気のせいと言われれば、そう思えなくもない。

航くんの言葉を信じてもいいのかな……?
 
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