再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「本当に、怒ってないの?」
「あぁ。だからそんな泣きそうな顔するなよ。バカ紗菜」
航くんが以前と同じような口調になり、ホッとして頬が緩む。
「……うん。そっか……それならよかった」
「紗菜が俺に“近づくな”って言ったことも忘れてやるから安心しろ」
「あ、う、うん……」
元々は航くんが私をからかったのが原因のはずで、いろいろなことをすっ飛ばして丸め込まれているような気もするけれど、目の前にある呆れたような航くんの笑みが見れただけで今は十分だと思ってしまった。
……そうだ。昔も私が100%悪いことでも最終的には航くんがこうやって折れてくれて、仲直りしていたんだった。
10年以上経っても私たちの関係は何も変わらないんだ。
「じゃあ、解決な。ほら、もう遅いから、早く部屋に入れ」
航くんは面倒そうに手を払うように動かす。
そのとき、ふと気づいた。
もしかして、この態度も「忘れてやる」という言葉も、航くんの優しさだったりするのかな……?
その証拠に私が入るのを見届けようとしてくれているし、本当に面倒だったり怒ったりしているなら、たとえ帰る方向が同じだとしても送ってくれることはないはずだ。
ほんの少しだけ航くんの心が見えた気がして、頬が緩んだ。
「うん。おやすみなさい。航くんも気をつけて帰ってね」
「あぁ。おやすみ」
航くんに小さく手を振って踵を返し、私はマンションの入り口に向かって歩き出す。
昔の私だったらきっと、これが優しさだとは気づかなかった。
航くんは本当にわかりにくい。想像以上に不器用な人なのかもしれない。
……もしかして、普段の航くんの言葉や態度にも私の知らない意味があるのかな。
すぐにはわからないけれど、無性に、航くんのことをもっと知りたくなった。
背中に感じる航くんの視線も相まって、鼓動が速度を増すのを感じながら、私はマンションへと入った。