再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
……唇が触れるまであと5センチ。
目を閉じようとしたとき、航くんの動きが止まった。
「バーカ。何期待してるんだよ」
低い声が耳に届き、私は我に返った。
航くんは呆れたような表情をしていて、私は慌てて否定する。
「ちっ、違う! 期待なんて、してなっ……、にゃにふるのっ」
航くんの手が私の頬を両側からつまんできて、言葉を封じられた私は航くんの腕を掴む。
「うるさい。自業自得だろ。そんな無防備さを見せるのは俺だけにしとけよ。他のやつに見せたら許さないからな」
「はっ!?」
「先に戻る。お前はそのぶっさいくな顔、直してから戻ってこい」
航くんは私の身体を壁に押しつけるようにした後、踵を返して入り口の方へ歩き始める。
心臓の鼓動が速すぎて痛いくらいに苦しくて、私をからかうような彼の言葉に私は何も言うことができない。
今自分がどんな顔をしてどんな状況にいるのかよくわからないまま、彼の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
航くんが資料室を出ていった数秒後、私は本棚の壁に沿うようにしてその場に座り込んだ。
両手で頬を押さえる。
「ぶさいくって、酷い……っ」
そう思うのに心臓の鼓動の速度は落ちることなく、全身に血が駆け巡っているのがわかる。
「……な、何、これ……っ」
今まで想像もしていなかった感情の波が押し寄せてくる。顔も身体も熱い。
……待ってよ……そんなわけ、ない。
だって、私の初恋の人は翼くんなのに……。
私は翼くんみたいに優しい人が理想なのに……。
私、どうして航くんに対して、こんなにドキドキしてるの……。