再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
しばらくして私の話が終わると、航くんは口を開いた。
「そんなに気に入ってもらえたならよかった。改善案も含めて建築士にも伝えておく」
「はい! 本当に完成が待ち遠しくて仕方ありません。すごく素敵だろうなぁ」
感嘆の息をつきながら妄想を繰り広げそうになったとき、航くんが見計らったように小さく息をついた。
そして彼は「じゃあ、続きの作業をよろしく」と口にし、視線をパソコンに戻してしまった。
また呆れさせちゃったかな……。
浮かれた気持ちを落ち着かせながら私もデスクに向き直り、再び確認作業に戻る。
この資料の確認を始めてからすぐに気づいたのは、航くんが私を連れてブライダルフェアに行った理由だった。
航くんはこのブライダルの案件があったから、模擬ではあるけれど雰囲気を視察するために、あの場所に行ったのだ。
あの日のことはずっと頭の中に引っかかっていたし、ひとつだけでも疑問が解決したのはよかったと思う。
でも、もやっとした気持ちが私の中に生まれているのも事実だ。
いろいろあったとは言え、あの日は充実した楽しい1日を過ごしたと思っていた。
でも航くんにとっては仕事の一環でしかなく、私の元カレに会ったときの航くんの言葉もただの社交辞令だったということだ。
彼の言葉で救われたと思ったことすら偽りだったかもしれないと思うと、悲しい気持ちになった。
息をつくのと同時に、作業をする手が止まっていることに気づく。
いけない。この案件を成功させるためにも、仕事に集中しなきゃ……。
そうやって気持ちを戻そうと思うのに、なかなか切り換えることができない。
仕事中に私情を持ち込んでしまう自分の情けなさに息をつきながら視線を動かすと、冷えてしまったコーヒーが目についた。
カップを手に取ってコーヒーを飲み干し、深呼吸をする。
すると気持ちが落ち着いた気がして、今がチャンスとばかりに私は再び資料に向き直った。