再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 

航くんがイタリア出張へ旅立つ前日のこと。

クライアントのもとへ出かけている航くんから、ある案件の照明の見積もりを出してほしいという連絡があった。

その作業をしていたとき「すみません」と声をかけられ、私は返事をして振り向いた。

すると藤岡さんの姿があり、思わず息をのんでしまう。


「今日、瀬戸くんはいらっしゃいますか?」

「あ、瀬戸さんですね。今日はクライアントのところに行っていて夕方までいないんです。定時頃には戻ってくると思うんですけど」

「そうですか。じゃあ、瀬戸くんが戻ってきたら、これを渡しておいていただけますか?」


藤岡さんがA4サイズの封筒を差し出してくる。

私は反射的に立ち上がり、それを受け取った。


「はい。承知しました。必ず渡しておきます」

「ありがとう。よろしくお願いします」


藤岡さんの雰囲気はとても柔らかく、女性らしさに溢れている。

美人というだけではなく口調もふるまいも大人で、社長令嬢とは思えないほどの物腰の柔らかさは嫌みを感じさせない。

私が逆立ちしても叶わないくらい完璧な彼女のことを、私はただ見つめた。

藤岡さんは「お仕事の邪魔をしてごめんなさい」と私に微笑みかけた後、丁寧に会釈し、踵を返してオフィスを出ていった。

先週、航くんと藤岡さんのやり取りを見てからというもの、気づけば私の頭の中にはふたりの姿が浮かんでしまう。

私がよく知っている意地悪な航くんであれば藤岡さんはもったいないと思うけれど、表向きの航くんであれば彼女とも本当にお似合いだ。

そう思うたびに、私の胸には軋むような痛みが走る。

……余計なこと考えていないで、仕事に戻ろう。

私は私情を振り払って仕事モードに頭を切り替え、見積書の作成に戻った。
 
< 95 / 196 >

この作品をシェア

pagetop