再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
定時を少し過ぎた頃、航くんがオフィスに戻ってきた。
でもデスクに腰を落ち着かせることなく、同僚や部長の元へ行き、忙しなく動いている。
明日からイタリア出張ということもあり、その前に後輩への指示出しや上司への報告などやるべきことがあるのだろう。
私も藤岡さんから受け取った封筒を彼に渡さなければいけないけれど、もう少し待つ必要がありそうだ。
今日の予定作業が済んでしまった私は手持ち無沙汰を解消するために、これまでにうちの会社が手掛けてきた案件の完成画像をパソコンで見始めた。
案件は簡単なリフォームから大規模な改装まで様々あり、同じ空間はひとつもない。
というのも、似たような案件であっても企画する人のセンスやクライアントの希望によって空間作りは異なるため、同じ空間が完成することはないからだ。
その中でも私の好みにぴったりハマる案件は、瑠花の旦那様である川崎さんが手掛けたもの、そして、航くんが手掛けたものが多い。
ふたりの作る空間はタイプが異なるけれど、どちらも私のツボをつくものばかりだ。
特に航くんが作り出す空間は繊細なものからダイナミックなものまでさまざまで、振り幅の大きさにいつも驚かされる。
特にこの本屋の案件はいつ見ても素晴らしくて、海外だしすぐに行ける場所ではないけれど、いつか行ってみたいと思う。
感嘆の息をついたとき、背後から声をかけられた。
「お疲れ」
「あっ、お疲れ様です!」
振り向くと航くんの姿があり、ようやくデスクに戻ってくることができたようだ。
私はパソコンで見ていた航くんの案件のファイルを慌てて閉じ、藤岡さんから受け取った封筒を航くんに差し出す。
「瀬戸さん、これ、藤岡さんからです」
「ん、結衣から? ……あぁ、あれか。明日でよかったのに、律儀なやつ。楽しみすぎて仕方ないって感じだな」
航くんからこぼれた笑みには、呆れとともに愛情が感じられる。
私には向けられることのない表情に、胸に針が突き刺さるような痛みが走った。