再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
 
航くんのことを見つめたままでいると、封筒から私に視線を移した航くんが眉をひそめ、怪訝な表情に変わった。

そこにはつい一瞬前まで浮かんでいたやわらかい表情はない。


「まだ何かある?」

「あっ、いえ、それだけです」

「そう。明日からのことだけど、部長の指示に従って。メールのチェックもこまめによろしく。わからないときとか困ったときは、小さなことでもなんでもいいから、時間は気にしないで俺に連絡して。ひとりで抱え込むなよ。あと、いろいろ気も抜くなよ」

「はい……。あの、今から作業することはありますか?」

「いや、大丈夫。手持ちの仕事は終わったんだろ? 定時過ぎてるし帰っていいよ」

「承知しました。イタリア、お気をつけて行ってきてください。お先に失礼します」

「ありがと。お疲れ様」


航くんはそっけなく挨拶した後、視線をそらし、藤岡さんから受け取った資料を見ながらパソコンに向かい始めた。

その姿を横目に、私はパソコンの電源を落として帰り支度を始める。

……藤岡さんとはイタリアへのフライトも一緒なのかな。

もしかしてイタリアでもずっと一緒に行動して、ホテルも同じ場所?

1週間滞在するのであれば1日くらいは休日もあるだろうし、仕事以外の時間もふたりは一緒に過ごすのかもしれない。

考えれば考えるほど、想像すれば想像するほど、胸が苦しくなっていく。

なんかすごく嫌だ。どうして彼女と一緒に過ごしてほしくないなんて思ってしまうんだろう……。

私は彼にとってはただの幼なじみで、今ではただの会社の同僚でしかない。

だから彼が誰と一緒に過ごそうと、私には関係ないはずだ。

頭ではそう理解しているのに、自分でも理解できない感情が湧いてくる。

再会してからは航くんのことを見直すことが多いこともあり、その感情が仕事に対する尊敬なのか、それ以外のものなのかは、考えても区別がつかない。

また感情が混乱してしまったなと思いながら帰り支度を終えた私は後ろ髪を引かれる思いで挨拶をし、オフィスを後にした。


そしてこの翌日、航くんはイタリア出張へと旅立っていった。
 
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