溺甘副社長にひとり占めされてます。

彼は掴んでいた私の手を離し、口を閉じると、音を奏で続けるそれを手に取った。


「遥子ちゃん?……どうかしたー?……うん。それなら、手元にあるけど……」


彼が言いながら、階段の上に置いておいたらしいファイルを、片手でポンポンと叩いた。

遥子ちゃんがどこの誰だか分からないけれど、ひとまず助かったことにホッとする。

妙な喉の渇きを覚え、コーヒーのボトルに手を伸ばす。

キャップを開け、ふわりと広がったコーヒーの香りに、ひとりほほ笑んだ後、私はそれを口に運ぶ。


「……それ」


白濱副社長がぽつりと呟いた。私は無意識に彼へと目を向ける。

彼がちょっぴり目を大きくさせて私とコーヒーのボトルを見ているから、私も自然と目を見開き、首を傾げてしまう。

互いに頭の上に疑問符を浮かべたような顔をし、三秒ほど見つめ合った後、彼はハッとし、電話の向こうに話しかけた。


「……あぁ。ごめんごめん。やだなぁ、聞いてるって。あのさ、ちょっと取り込み中なんだ。戻るまでもう少し時間かかるかもしれないから、よろしくね」


あははと笑ったあとにでた彼の言葉に、飲もうとしていたコーヒーを思わず吹き出しそうになってしまった。


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