溺甘副社長にひとり占めされてます。
昼休み、白濱副社長に渡したコーヒーのマイボトルは、就業時間が終わる三十分前に、私の手元に戻ってきた。
突然現れた白濱副社長の秘書が、完璧な微笑を浮かべながら「あなたが館下さんね。初めまして、私が遥子です。どうぞよろしく」と言った。
“遥子”の部分でからかうように笑みが深くなったため、とっさに反応できずにいると、続けて彼女が言った。
「コーヒー。とっても美味しかったよ、ありがとう……と、副社長より言付かりました」と。
副社長という言葉に周りの空気が変わった気がして、頭から血の気が引いていく。
同僚たちとやる気のない後輩は唖然とした顔をしていたけれど、案の定、宍戸さんには睨まれ、課長からは汚らわしいものでもみるような目をされた。
そのあとの三十分は最悪だった。
聞こえてくる苛立ちのため息。遠回しに私のことを言っていると分かる悪口。
今までにないくらい、空気の悪い30分だった。
業務を終え、宍戸さんや村野さんはもちろんのこと、課長も、早々に帰宅の途についた。
その少し後に、同僚たちも仕事を終え、「疲れた」と言いながらデスクを離れだす。