溺甘副社長にひとり占めされてます。
「館下さん、手伝おうか?」と申し出てくれたけど、私は大丈夫と小さく首を振った。そしてふたりに「また明日ね」と手を振ったのだった。
すぐに終わるからとも言ったけど、言葉通りにはいかなかった。
みんなが帰ってから時間は三時間ほど経ち、時刻はもうすぐ夜の八時になろうとしている。
抱えている仕事に加え、朝、課長に追加されたぶん、それから、宍戸さんがミスしてしまった書類の直しも。
時間はかかってしまったけれど、きっちり片付けることが出来た。
私は椅子の背もたれに寄りかかりながら、パソコンのディスプレイに向かって両腕を伸ばした。
「終わった~」
疲労感と共に、一人呟いた瞬間、コトリと、デスクの上にワインレッドに白い水玉模様の可愛らしいタンブラーが置かれた。
「お疲れさま」
同時に、優しい言葉も頭上から降ってくる。
思わず見上げて、息をのむ。
白濱副社長がわずかに身を屈めて、私を見おろしていたから。
瞳と瞳の距離の近さに、また変な緊張感が湧き上がってくる。
「あっ、ありがとうございます……白濱副社長も、お疲れ様です」
「ありがとう」
彼ににっこり微笑まれてしまうと、やっぱり気持ちが落ち着かなくなっていく。