溺甘副社長にひとり占めされてます。
数秒後、私は大きく息を吸い込んだ。
「かっ、からかうのは止めてください! 私とじゃなく、可愛い店員さんとデートした方が何倍も楽しいですよ! それから、私のことを名前呼びしないでください! 周りに勘違いでもされたら、副社長だって困り……っ!」
慌てふためきながら言い並べていると、白濱副社長の顔が、ぐっと近づいてきた。
私は呼吸を止め、すぐそこにある綺麗な瞳を見つめ返す。
「……うん。確かに俺は可愛い子が好きだよ……でもそれよりも」
彼が笑みを浮かべた。そして今度は、ゆっくりと、顔を近づけてくる。
思わず身を強張らせた私の耳元で、彼が囁いた。
「頑張り屋さんの子の方がもっと好き」
最後にふふっと楽しげな笑い声を残し、彼は姿勢を元に戻した。
「美麗ちゃん。十分後に、下に集合ね」
言いながら、彼は自分の足元を指さした。
「……し、下って?」
小さく問いかけると、白濱副社長は自分のタンブラーを手に取り、私に背を向け歩き出した。
「白濱副社長」
妙に情けない声で呼びかけると、彼が肩越しに私を振り返り見た。
「美麗ちゃん、こんな時間まで頑張ってたから、ご褒美に、家まで送って行ってあげる」