溺甘副社長にひとり占めされてます。

トナー切れだ。しかもコピー機の並びにある棚の中に、トナーの代えが見当たらない。


「備品室、行ってきます」


独り言のように声を発してから、私は預かったファイルをコピー機の上に置き、そのまま廊下へと出た。





14階には総務課のある管理部と、営業部がある。

総務課を出て、営業部のフロアを横目に見ながら廊下を進めばエレベーターホールがある。

そしてその先に、給湯室、化粧室、そして備品室が並んでいる。


「約束ですからね!」


給湯室から聞こえてきた聞き覚えのある可愛らしい声に、つい足が止まってしまった。

そろりと室内を覗き込めば、やっぱりそこに宍戸(ししど)さんがいた。

肩にかかるくらいのこげ茶色の髪。袖の広い白のブラウスに、膝が隠れるくらいの丈があるピンク色のフレアスカート。

格好も声もとても可愛らしいこの女性は、同じ総務課で働いている人。

……課長に仕事を頼まれてから一時間戻って来ない社員というのが、彼女なのである。


給湯室にはもう一人、男性がいた。宍戸さんが輝く笑顔を向ける先にいるのは、営業部の男性。

私と同期だけど、総務課で地味に仕事をこなしている私とは違い、彼は入社二年目で第一グループリーダーへと昇格し、五年目の今、“課長”というポジションまで駆け上がっている。


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