溺甘副社長にひとり占めされてます。
2章、苦手なはずなのに、頬が熱くなる
コーヒーの香ばしいかおりに満ちた店内に入り、私はレジ前に出来ている列に並ぶ。
仕事用のバッグから取り出した、水玉模様のタンブラーに視線を落とし、私はほんの少しだけ笑みを浮かべた。
昨日、社のビルを出たところで待っていると、すぐに白濱副社長が現れた。
待っている間、自宅に送ってもらうことはやっぱり断るべきだろうと考え直してはいたのだが、結局は、彼に押し切られ、私は彼の車に乗せてもらうこととなった。
家に着くまでの30分。車中で会話が途切れることはなかった。
最近ホテルであった出来事とか、AquaNextの新作の話とか、それから店に行く日を勝手に決められそうになり反抗したりとか。
笑い声を交えながらの30分はあっという間だった。
彼の言動の軽さや明るく人懐っこい感じに対する苦手意識に悩まされることもなく、意外なほど、居心地の良い時間だった。
楽しかった夢からいまだ醒めていないような、そんな気持ちでいる自分に驚きと気恥ずかしさを感じながら、私はなかなか進まない列の先頭を見た。
販売しているタンブラーを吟味中らしい女性客の背中を見てから、続けて店内を見回した。
ここは自宅近くの喫茶店。
朝早くからやっているため、出社前にコーヒーを買うため、よく立ち寄っているお店である。