溺甘副社長にひとり占めされてます。
あの彼にも負けないくらい整っている我が社の副社長の顔を思い浮かべ、私は笑ってしまった。
「なーんだ。そういうことかぁ」
突然、知っている声が後ろから聞こえてきた。
まさかと思いながら、恐る恐る肩越しに後ろを見て……私はすぐさま顔を前に戻す。
なぜか、白濱副社長が後ろにいる。すぐ後ろに立っている。
白濱副社長のことを考えていて、本人と遭遇してしまったのは、これで二回目だ。
変に気恥ずかしくて、顔を向けづらくもあるけれど、このまま無視し続けるのは違う気がした。
例え頼んでいなかったことだったとしても、昨日美味しいコーヒーが入ったタンブラーをいただいてしまっているし、そのあと自宅まで送ってもらってもいる。
考えを変え、朝の挨拶をするべく後ろを振り返り、私は息をのんだ。
私の視線と同じ高さに、白濱副社長の瞳があったからだ。
「おはよ。美麗ちゃん」
距離が近いということに膨らんだ反発心が、彼の声を聞いた途端、どこかに消えてしまった。
「お早うございます、白濱副社長……なにかありました?」
いつもにこやかに挨拶をしてくる彼が、ちょっぴり頬を膨らませ、ふて腐れているのだ。