溺甘副社長にひとり占めされてます。
そっと、温かな手が頬に触れ、ほんの一瞬、時間が止まった。
感じる温もりは彼のものだ。
彼が自分に触れていることに、頭の中が真っ白になっていく。
何も言えなくなってしまい口を閉じると、私を見つめている瞳が切なく細められた。
「すっごく可愛らしい顔で笑ってたよ」
途端に、かっと顔が熱くなる。
「かっ、からかうのは止めてください!」
白濱副社長の手を払いのけた自分の手は、微かに震えていた。
彼の言葉に対して抱いた感情は、驚きだけじゃなかった。
嬉しくて恥ずかしくて舞い上がりそうな自分がいる。
「俺、からかってないよ?」
「とぼけないでください。私、自分の程度は、ちゃんと分かっていますから」
自分が地味な女だってことはちゃんと理解している。白濱副社長のようにハイレベルな男性に褒めてもらえるような女ではないと。
自制しながら、私は白濱副社長に背を向ける。
並んでいる列を詰めつつ、気持ちを落ち着かせるべく深呼吸をしていると、ガシリと肩を掴まれた。
「ちょっと待とうね、美麗ちゃん」
背後から白濱副社長のちょっぴり不機嫌な声で聞こえてきた。
「こっちを向いて」と言われても、なかなか振り返れずにいると、もう一つ、聞き覚えのない声が割り込んできた。