溺甘副社長にひとり占めされてます。
「お早うございます。白濱さん」
話しかけてきた姿を見て、出かかったうめき声を必死に堪えた。
白濱副社長に挨拶してきたのは、あの窓際の席に座っていた男性だったからだ。
「先日、連合会のパーティーでお会いしました武田です。覚えていらっしゃいますか?」
男性が淡白な笑みを浮かべながら問いかければ、白濱副社長がにっこりと笑った。
「えぇ。もちろんです。TJコーポレーションの武田さんとは、また話をする機会を得られたらと、そう考えておりました」
彼がいつも通りの人懐っこい笑みを浮かべたのは、最初だけだった。
会場へのアクセスが不便だった話や、有名店のシェフが呼ばれただけあって食事がとても美味しかったことなど。
周りには人もいるし、白濱副社長の隣には私もいるためか、二人の会話は当たり障りのない内容ばかりだった。
しかし話を続けていくうちに、武田さんを見つめる白濱副社長の柔らかな眼差しが、まるで内面を見透かしているかのように、力強さを帯び始めていく。
世間話をしているかのような気軽さなどそこにはない。
まるで重大な案件の話をしているかのようだ。