溺甘副社長にひとり占めされてます。
宍戸さんの話し方や声を聞けば、彼女が彼を狙っているということがすぐわかった。
地位のある男性、特に独身に対しては、いつもこのような感じなのである。
その理由は、常日頃ぼやいている「あー。早く寿退社したい」という言葉から、察することができる。
「えー。じゃあ。いつなら空いてますか? 私、予定合わせますよ……あっ……館下さん」
ニコニコ笑っていた宍戸さんが、私に気付き、眉を潜めた。
営業部の男性も私を見て、不思議そうな顔をする。
「……えっと、お疲れ様です」
彼とは入社前に研修で一緒だった。初めましての関係ではないのに、その声と表情から、私のことを覚えていないことは明らかだった。
どこ所属の子だろうかという顔の彼に、私は「お疲れ様です」とだけ言葉を返し軽く頭を下げた。
すると、宍戸さんが二歩ほど歩み寄ってきた。
「私に何か用ですか?」
朗らかな声で話しかけてきたけれど、表情は真逆である。
あからさまなくらい顔をしかめているけれど、死角となっているため、後ろに立つ彼にその表情は見えない。
「いえ。別に宍戸さんに用事があったわけではなくて……」