溺甘副社長にひとり占めされてます。
「大切に使わせていただきます」
このタンブラーは、彼の優しい気持ちでもあるのだから、大切に使いたい。
笑顔で宣言すると、白濱副社長がほんの一瞬、瞳を大きくさせた。
「そうだ。美麗ちゃんだから、こっそり教えてあげるけどさ……」
すぐに彼も口元に笑みを浮かべ、内緒話をするように口元に手をかざし、身を屈めてきた。
私も、彼の口元へと耳を寄せる。
「……俺は、見る目あるからね」
「え?」
言い終えると、彼は満足したような顔をして、私の鼻先を指先で突っついてきた。
言葉の意図することを想像してしまえば、勝手に頬が熱くなっていく。
自惚れちゃダメだ。天下のロイヤルムーンホテルの副社長が、私なんかを相手にするはずがない。からかっているだけ。
そう思うべきなのに、彼が私に向ける優しい眼差しと、再び腰元に触れてきた温もりが、私の心を熱くさせていった。
+ + +
「あの……もうこの辺りで」
「こんなところで? 会社までもうすぐなんだし、遠慮しないでよ」
車を降りたいと申し出てみたけれど、私の訴えは隣に座る白濱副社長の微笑みと共に却下されてしまった。