溺甘副社長にひとり占めされてます。
店を出てから私は駅に向かおうとしたけれど、白濱副社長に腕を掴まれ、そのまま彼を待っていた社用車の中へと押し込まれてしまった。
このまま社に到着してしまったら、副社長と一緒に車から降りることになってしまう。
それを誰かに見られてしまったら。
宍戸さんの顔を思い浮かべ、私はぶるりと身震いした。
それじゃなくても居心地が悪いというのに、さらに現状が悪化しようものなら、大変なことになる。
「白濱副社長。お願いですから」
「そうだ! 一緒に出社しちゃおうか!」
「嫌です! 恐ろしいこと言わないでください!」
名案だみたいな口調で明るく言ってきたから、私も即答で拒絶する。
言い合っていると、助手席に乗っていた白濱副社長の秘書の遥子さんがコホンと咳払いした。
「大通りに出る前に、停車してください」
あっさりした口調で運転手に指示を出した。
運転手も笑いを堪えたような声ですぐに返事をする。
ほっとした私の傍らで、白濱副社長が「えー!」と声をあげた。
「遥子ちゃん、ひどい。美麗ちゃんの味方なの?」
「えぇ。その通りです。よく分かりましたね。さすがです」
遥子さんの返しに、白濱副社長がうめき声をあげると、車が緩やかに路肩に停まった。
私は前に座っている二人に対して心の底から「ありがとうございました」と感謝を述べ、車を降りた。