溺甘副社長にひとり占めされてます。

辺りには出勤途中だろう人々が多くいるけれど、見る限り、私の知っている顔はない。

ホッと息を吐くと、白濱副社長たちの乗った車が静かに走りだした。

彼と一緒にいる所を見られず済んだことに胸をなでおろした瞬間、ポンと、肩に手が乗せられた。


「たまには歩くのも悪くないよね」

「しっ、白濱副社長!? だって、車に。えっ!?」


ニコニコ顔で後ろに立っている彼と、走り去っていく車を交互に見てしまう。


「うん。美麗ちゃんと一緒に出社したかったのにって文句を言ったら、“でしたら、副社長も車を降りたらよろしいのでは?”なんて言われちゃって。それもそうだなって」

「納得しないでください。白濱副社長は降りちゃダメですよ」

「冷たいなぁ。俺は美麗ちゃんと一緒に出社したいだけなのに」

「私は嫌です」


つい本音を口にしてしまい、ハッとする。見上げれば、白濱副社長が冷たい目で私を見ていた。


「俺が嫌だから?」

「ち、違います! こうして白濱副社長と一緒にいるのは……嫌いじゃないです」


嘘じゃない。

彼のことは苦手なはずだった。けれど今は、彼とのやり取りを楽しいと思う瞬間がたくさんある。


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