溺甘副社長にひとり占めされてます。
頬に触れていた彼の指先が、顎へとおりてくる。
そのまま顎を持ち上げられてしまえば、もう、彼から目がそらせなくなる。
「美麗ちゃんが傍にいてくれるなら、俺はどんな手を使ってでも、君を守るよ」
彼の言葉が甘く響く。
告白のようにも聞こえてしまい、頭の中が真っ白になっていく。
見つめ合っていると、ゆっくりと彼の顔が近付いてきた。
緊張で身体を固くした瞬間、バタリと、車のドアの閉まる音が大きく響いた。
「……えっ」と女性の驚いた声が続いたことで、私は我に返り、両手で白濱副社長の胸元を押し返した。
声がした方へと顔を向け、泣きそうになる。
高級車の隣で、唖然とした表情を浮かべ私たちを見ていたのが、よりによって同じ部に所属する、あのやる気のない後輩、村野さんだったからだ。
「……華代(かよ)ちゃん」
白濱副社長がぽつりと呟いた。
ハッとし見上げれば、彼は少しだけ気まずそうな顔で、村野さんを見つめていた。
そしてゆっくりと、私に触れていた手を引っ込めていく。
ヤバいところを見られてしまった。そんな感じだ。
途端、苛立ちが込み上げてくる。
ここにいたくない。逃げ出したい。
これ以上、見つめ合うふたりを見たくない。