溺甘副社長にひとり占めされてます。
「……失礼します」
「えっ、美麗ちゃん。待って」
彼に掴まれた手を振り払って、私はその場から走りだした。
大通りに出て角を曲がるほんの一瞬、元いた場所を振り返り見て……後悔した。
気まずい顔の白濱副社長の隣に、苦笑いをする村野さんが立っていた。
ふたりの間に上下関係などない。
向かい立つ様子から、そんな仲の良さを感じた。
+ + +
自分のデスクにバッグを置いて、大きく息を吐き出し、そっと胸元を抑えた。
最後に見た白濱副社長と村野さんの光景が頭から離れなくて、胸が苦しい。
冷静になりながら気づいた事実にも、気持ちが落ちていくのがわかる。
さっき白濱副社長は、村野さんのことを「華代ちゃん」と呼んでいたのだ。
仕事ができる女性を名前呼びしている時とも、私を呼ぶ時とも、また感じが違っていた。
親しみが込められているような声だった。
実際に、仲が良さそうに喋っている様子も見てしまっているし、ふたりは特別な関係なのではないかと思えてくる。
とんとんと胸元を軽く叩いた。なんでこんなにも、私はショックを受けているのだろう。
息を吐いてから、私は自分の頬に触れた。
そして白濱副社長の温もりと、くれた言葉を思い出す。