溺甘副社長にひとり占めされてます。

村野さんは「ありがとうございます」と机上にタンブラーを戻し、自分のデスクへと向かっていく。


「え? 今、副社長って言った?」

「うちの副社長って、言ったよね?」


同僚たちと目が合ってしまった。


「……ま、まさか。白濱副社長?」



恐る恐る問いかけられ、私は小刻みに首を横に振った。


「ちっ、違うから。そんなことあるわけないじゃない」


否定したのに、同僚たちは戸惑った顔のまま、私と村野さんを交互に見ている。


「そうですよー。白濱副社長が館下さんなんか相手にするわけないじゃないですか!」


宍戸さんがきゃははと笑いだせば、課長も大きく頷き出す。


「そうだそうだ。天と地がひっくり返っても、あり得ない話だ。館下君、バカな想像ばかりしてないで、もう少し真面目に仕事をしろ……さっき言った午前中にあげねばならない仕事のことだが……えぇと……」


私は何も言ってないし、毎日真面目に仕事をしています!

先の発言が納得いかず、私は課長を睨みつけた。

課長は私に押し付けたかった仕事のことが頭から抜け落ちてしまったらしい。

鞄の中をごそごそとあさったあと、デスクの引き出しをからからと開け始めた。


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