溺甘副社長にひとり占めされてます。
「美麗ちゃん、おはよ」
通りすがりに、彼がそう囁きかけてきた。
おまけに、冊子の表紙で頭をポンと叩かれた。
頭を手でおさえて振り返れば、肩越しにこちらを見た彼と、ほんの一瞬目が合った。
にこりと微笑みかけられ、ドキリと胸が高鳴った。
優しい表情に、心が引きこまれていく。
彼の背中が視界から消えるその瞬間まで、私は目を逸らすことができなかった。
+ + +
「君と副社長は、どういった関係なんだ。頼む! 教えてくれ!」
「もういい加減にして下さい! 本当に、副社長と一社員としか、言いようがないんです」
「しかしだな。さっきの副社長からただならぬ空気が……まさか、副社長の方が館下君に惚れ……」
「やめてください! 違いますから! 変なこと言わないでください!」
社のビル前で副社長と別れてから、今こうしてエレベーターに乗っている間も、課長の質問は止まらない。
エレベーターには宍戸さんなどロイヤルムーンホテルの社員だけでなく、さきほどの副社長とのやり取りを見ていたらしい他社の女性社員たちがたくさん乗っている。
こちらに聞き耳を立てている人もいれば、宍戸さんと同じように冷たい眼差しをむけてくる女性もいるのだ。
生きた心地がしなく、しばらく黙っててくれないだろうかと、ついつい課長を睨みつけてしまう。