溺甘副社長にひとり占めされてます。
やっと14階に到着し、私はそそくさとエレベーターを降りた。
じろりと私を睨みつけてから、宍戸さんが総務課の方へと歩いていく。
今日も憂鬱な一日になりそうだと思わず肩を落とした時、化粧室の方から村野さんが歩いてきた。
「館下さん、おはようございます」
「おはよう。村野さん」
すれ違いざま挨拶され、慌てて返したけれど、彼女に自分の声が届いているかは分からなかった。
彼女はこちらを見ることも、立ち止まることもなく、通りすぎて行ってしまったからだ。
「村野君、おはよう」
そして感謝した。課長が鼻の下を伸ばして、彼女のあとを追いかけていく。
「ひとまず解放されたみたいだね」
デレデレの課長と、そんな課長をまったく相手にしない村野さんを半笑いで見つめて、同僚がそう言った。
「課長しつこいから、村野さんも大変だろうな」
小柄な彼女の後ろ姿を見つめながら、私は考えてしまう。
副社長との関係を疑うなら、私よりも村野さんの方ではなかろうか、と。
あの朝、仲が良さそうに見えたのは、思い違いではないはずだ。
それに時々、よく知っているかのような口ぶりで彼女は副社長の話をする。
いったい、ふたりはどんな関係なんだろう。