溺甘副社長にひとり占めされてます。
そこまで考えハッとする。これでは部長と同じだ。
苦笑いを浮かべていると、営業部から白濱副社長の秘書、遥子さんが出てきた。
「ほら。館下さん。気合入れて! 行くわよ!」
「う、うん」
同僚は、私の背中をバシッと叩くと、力強い足取りで歩き出す。
もちろん私も同僚のあとに続くけど、遥子さんの様子に違和感を覚えれば、徐々に足が重くなっていった。
遥子さんの顔色が悪い。ひどく具合が悪そうだ。
それでも、彼女は足早にこちらに向かってやってくる。
宍戸さんや課長たち、続けて同僚とも挨拶を交わしたけれど、そこから三歩ほど進んだところで、遥子さんの足が止まってしまった。
瞳を閉じ、こめかみの辺りをおさえている。
その姿を見て、私は慌てて彼女へと走り寄った。
「大丈夫ですか?」
「……えぇ。大丈夫です」
決して、大丈夫には見えなかった。
私を見て笑うその顔は真っ青で、痛々しくも見える。
「どこかに座って休んだ方が」
そっと伸ばした私の腕を、遥子さんは辛そうに掴んできた。
「……すみません」
状況を察し戻ってきた同僚と共に、遥子さんを支えながら廊下の壁際へと移動すれば、通りかかった人たちも何事だと足を止め始める。