溺甘副社長にひとり占めされてます。


「ごめんなさい……やっぱり、ダメかもしれないわ……頼まれてもらえますか?」


大きく息を吐いた後、遥子さんが持っていた大判の封筒を、すっと私に差し出してきた。


「一号館でこれから会議があるの。そこに副社長がいるから、これを渡してください」


ここ本社からロイヤルムーンホテルの一号館まで、歩いて三分もかからない。行って渡して戻って来ても、始業開始時刻にはじゅうぶん間に合うだろう。

頷き、封筒を受け取ろうとした瞬間、横から誰かが割り込んできた。


「どうしたんですかー?」


宍戸さんだった。いつの間にか戻って来ていたらしい。

どうしたんですかと聞きながらも、彼女なりに状況は把握しているようだった。


「それを白濱副社長に渡せばいいんですか? だったら、私が持って行きます! 任せてください!」


宍戸さんはニコニコ笑いながら、遥子さんが持っている封筒を掴み取ろうとしたけれど……封筒に触れることすら、できなかった。

遥子さんは封筒を持っていた手をおろし、非難するような眼差しを宍戸さんに向ける。


「いえ。私は、館下さんにお願いしたいのです」


きっぱり言い放つと、彼女は改めて私へと顔を向ける。


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