溺甘副社長にひとり占めされてます。
そう言って、彼はシートに背を預け、その大きな手の平で目元を覆った。
「今日の会議だけじゃない。今後の交渉だって優位に進められなくなるとこだった」
彼の微笑みの裏側にある副社長という重圧が、私にも伝わってきて、なんだか涙が出そうになってしまう。
「本当に、お疲れ様でした」
「それを言うなら、美麗ちゃんもだよ。どうだった? 秘書の仕事は」
「私は、ただお手伝いをしていただけですから」
ふるふると首を振れば、彼の指先が私の前髪に触れた。
「俺のそばで、働きたいなって思ってくれた?」
触れている指先の熱と、私を見つめる彼の瞳の力強さに、鼓動が高鳴っていく。
白濱副社長を見つめたまま動けずにいると、彼がふっと、口元に笑みを浮かべた。
「実はさ、遥子ちゃんおめでたなんだよね」
「そうだったんですか!? 全然気づきませんでした」
「まだ初期らしくて、お腹も目立ってないからね。彼女、ぎりぎりまで働きたいって言ってくれててさ、こちらもその予定ではいるけど、あまり無理させたくないよね」
前髪に触れていた彼の指先が、私の頬へと降りてくる。
触れられていることを、嫌だなんて思わなかった。