溺甘副社長にひとり占めされてます。
「館下さん、今大丈夫?」
室内に入ってきたのは秘書の遥子さんだった。今日は顔色も良い。いつも通りだ。
「休憩中ごめんなさいね。ちょっと聞きたくて」
「いえ」
彼女を迎えるように立ちあがる。ついでに、私たちの話を聞く気でいる様子の同僚をわきへと押しやった。
「どうしましたか?」
「館下さん、ドーナツとワッフル、どっちが好き?」
突然の質問に、つい目を大きくさせてしまう。遥子さんは笑みを浮かべてから、言葉を続けた。
「この前、迷惑をかけてしまったから、お詫びがしたくて」
「迷惑だなんてそんな。気にしないでください」
「何かしないと私の気持ちが収まらないの。どっちが好き?」
両手を合わせお願いされてしまえば、答えないわけにはいかない。
「……どちらも好きです」
「そう? じゃあ。この前、可愛いドーナツを売ってる店見つけたから、今度買ってくるわね」
「ありがとうございます」
「ワッフルは副社長が買ってくるからね」
「……はい?」
言うなり彼女はすっと笑みを引っ込め、秘書の顔になった。
「これから外に出るから、もしかしたら帰りが遅くなっちゃうかもしれないけど、お土産買って帰るから、今日も副社長室で俺のこと待っててね、美麗ちゃん……と、副社長から言伝を預かってまいりました」