溺甘副社長にひとり占めされてます。
彼の口調を真似つつも、遥子さんは表情を崩さない。
自然と白濱副社長の顔が浮かんできてしまえば、なんだか本人から言われているような気持ちになっていく。
「それでは、よろしくお願いしますね」
最後にもう一度ニコリと笑ってから、遥子さんは廊下へと出て行った。
「あぁー。館下さん羨ましい! どういう経緯で……」
「ごっ、ごめん。私ちょっと行ってくる」
近づいてきた同僚の肩を両手で押しとどめてから、私は急いで遥子さんの後を追いかけた。
「遥子さん! 待ってください!」
廊下に飛びだし、私は彼女の背中に向かって声を張り上げた。
すぐに遥子さんも足を止め、こちらを振り返り見る。
「あの申し訳ないのですが……今日は、用事があるので遠慮しますと、白濱副社長に伝えてもらえますか?」
「用事?」
「はい! そうなんです! 実はこう見えて私、いろいろと忙しくて、連続で呼び出されると困ると言いますか」
気持ちを込めてお願いすると、遥子さんは一拍置いてから口角を上げた。
「わかりました。迷惑ですと伝えておきますね」
「あっ、迷惑ってわけじゃなくて、なんか悪いなぁって」
「ではそのように伝えておきます」
「……お、お願いします」