溺甘副社長にひとり占めされてます。
終業時刻が過ぎて早々、課長が私に話しかけてきた。以前の態度が嘘のように、最近はずっとこんな感じだ。
終わらなかった仕事もないため「はい」と素直に応じると、課長がもう一言追加してきた。
「早く副社長室に行きたまえ」
机上を片付けようとしていた手が止まる。
「いいなぁ。白濱副社長と一緒にワッフル。いろいろ甘すぎるんですけど」
「美麗ちゃん、食べさせてあげるからこっちにおいで」
「やだぁ。和臣さんたらぁ」
同僚たちの微妙な演技に、ついついしかめっ面になってしまう。
「丁重にお断りしました。私は行きません。帰ります」
きっぱりと言い放てば、同僚たちがざわめき始めた。
「えぇっ? どうして?」
「もったいない! 白濱副社長からのお誘いだよ!? 断るなんて、もったいない!」
ふたりとも椅子から立ち上がり、足早に近づいてくる。
「お疲れ様でした!」
慌てて机上を片付けて、私も立ちあがった。
近くのロッカーから自分のバッグを取り出し、追求してくる同僚たちを避け、小走りでその場から逃げ出した。
廊下に出て、スマホを確認しながら帰宅する人々に混ざって歩き出す。