溺甘副社長にひとり占めされてます。
久々に早く会社を出るのだ。
どこかによって帰ろうか。それとも真っ直ぐ家に帰り、のんびりするか。
どうしようかなと考えながら、足を止める。
エレベーターが到着するのを待っていると、後ろから、女性の棘のある声が聞こえてきた。
「ねぇ、あの子」
「あ……白濱副社長に、なぜか、気に入られてるって噂の」
後ろは振り返らなかったけれど、自分のことを言われているのは、はっきりとわかった。
深呼吸して持っているスマホへと意識を集中する。後ろを気にしないように努めた。
しかし、到着したエレベーターに乗りこみ顔をあげた瞬間、女性二人と目が合ってしまった。
確かどちらも営業部だ。そしてやはり、一度も話したことがない人たちである。
ふたりは私の後ろで足を止めると、再び話し始めた。
「ねぇ。知ってる? 白濱副社長の秘書、辞めるらしいよ」
「そうなの? 初耳」
情報の速さに、ちょっぴりビックリしてしまう。
「そう言えばあの秘書、副社長と付き合ってるって噂あったけど」
「あったね。実際はどうか分からないけど」
「噂が本当だったとしたら……副社長は美人の秘書から地味な子に乗り換えたってこと?」
「ほんと不思議だよね」