溺甘副社長にひとり占めされてます。

久々に早く会社を出るのだ。

どこかによって帰ろうか。それとも真っ直ぐ家に帰り、のんびりするか。

どうしようかなと考えながら、足を止める。

エレベーターが到着するのを待っていると、後ろから、女性の棘のある声が聞こえてきた。


「ねぇ、あの子」

「あ……白濱副社長に、なぜか、気に入られてるって噂の」


後ろは振り返らなかったけれど、自分のことを言われているのは、はっきりとわかった。

深呼吸して持っているスマホへと意識を集中する。後ろを気にしないように努めた。

しかし、到着したエレベーターに乗りこみ顔をあげた瞬間、女性二人と目が合ってしまった。

確かどちらも営業部だ。そしてやはり、一度も話したことがない人たちである。

ふたりは私の後ろで足を止めると、再び話し始めた。


「ねぇ。知ってる? 白濱副社長の秘書、辞めるらしいよ」

「そうなの? 初耳」


情報の速さに、ちょっぴりビックリしてしまう。


「そう言えばあの秘書、副社長と付き合ってるって噂あったけど」

「あったね。実際はどうか分からないけど」

「噂が本当だったとしたら……副社長は美人の秘書から地味な子に乗り換えたってこと?」

「ほんと不思議だよね」



< 90 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop