溺甘副社長にひとり占めされてます。
クスクスと笑い声が響いた。
エレベーターに乗り合わせた他の人たちも、彼女たちの話が聞こえているのだろう。私をちらちらと見てくる人もいる。
噂話の標的にされたり、好奇の視線を向けられるのは、正直不快ではあるけれど、その度、反応してもいられない。
私は視線をスマホへと戻し、“気にしない”と心の中で静かに呟いた。再び周囲をシャットアウトする。
ふっと思い浮かんだのは、遥子さんの顔。
先ほど、ドーナツとワッフルどちらが良いかと私に聞きに来たときの彼女の様子を思い出し、思わず口元に笑みを浮かべた。
遅かれ早かれ、遥子さんが産休をとるのは間違いない。
それがいつなのかまだはっきり聞いていないけれど、その時が来たら私も何か彼女に渡したい。何が良いだろうか。
考えを巡らせ、次に思い浮かんできたのは、白濱副社長の顔だった。
共に仕事をしてきたのだから、私よりも彼の方が遥子さんについて詳しいと思う。
彼に選ぶのを手伝ってもらえたら……楽しいかもしれない。
並んで歩く自分たちの姿を想像すれば、一気にテンションが上がっていく。
エレベーターが到着し、ワクワクしたまま歩き出す。