嘘をつく唇に優しいキスを
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「では、請求書を送らせていただきます。はい、失礼します」
受話器を置き、机の端に置いていた請求書を手に取ると封筒に入れた。
得意先から請求書を郵送する前に、まずファックスで送って欲しいと連絡があった。
さっき請求書のコピーをファックスで送り、それを受け取ってもらったのか、確認の電話をしていた。
郵送作業を終え、休憩でもしようかと思っていたら営業部長の今泉さんに声をかけられた。
「麻里奈ちゃん。会議室にコーヒー三つ、お願いできる?全部ブラックで」
「はい、分かりました」
「あと、灰皿もお願い」
そう言って今泉部長は書類を手に部下二人と会議室に入っていった。
私、桜井麻里奈は入社二年目の二十四歳。
建物の外構やエクステリアの設計から施工、管理及び園芸関連の資材の販売までやっている会社『ニッカエクステリア』に勤めている。
社員数は約七十人、会社は古い二階建ての自社ビルだ。
会社の敷地内に倉庫がたくさんあり、この倉庫は園芸関連の資材置き場になっている。
うちの会社は男性社員の割合が高く、女子社員は十五人しかいない。
その女子社員はみんな私より年上だけど、ドラマとかでよく見かける様なお局的な意地悪な人はいない。
私のお母さん世代の人も働いていて、なにかと世話を焼いてくれる人が多い。
和気あいあいとした雰囲気の会社だ。
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