嘘をつく唇に優しいキスを
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「あー、これは虫歯だね」
聞いた瞬間、“ガーン”という効果音が脳内に鳴り響いた。
昨日からのダメージで気持ちがどん底真っ只中なのに、追い打ちをかける歯科医師の言葉。
あの後、送ってくれるという新庄くんの申し出を断った。
そんなことをしてもらったら余計に辛くなるだけだし。
こういう優しさは傷心の私には本当にキツイ。
アパートにつき、階段をのぼっていると足を滑らせて脛を強打してしまった。
あまりの痛さに半泣き状態でなんとか帰宅。
シャワーを浴びながら、ふと午後から歯の定期検診を予約していたことを思い出す。
そんなこんなで、ゆっくりする間もなく、いとこが働いている『牧村ファミリー歯科』に来ていた。
検診だけで終わると思っていたのに、まさかの虫歯とか!
ホントについてない。
次から次へと我が身に降りかかる不運にため息しか出ない。
治療が終わり、ハンカチで口許を拭きながら足取り重く待合室へと向かう。
また来週も来ないといけないとか最悪だ。
治療の時、口を開けっ放しにしないといけないのが辛い。
ウィーンという耳を塞ぎたくなるような機械音に変な懐かしさを覚えていた。
小学生の頃は虫歯治療でよく歯医者に通っていた。
高校ぐらいから特に虫歯にはなっていなかったので、虫歯治療をするのは十年ぶりぐらい。
また歯医者通いかと思うだけで憂鬱でたまらない。