嘘をつく唇に優しいキスを
売り言葉に買い言葉みたいなやり取りは日常茶飯事だったし、さっきはムカついたけど今は全く気にしてなかった。
「あんなこと言うつもりはなかったけど、変な空気になってたから……」
もしかして、わざと挑発するようなことを言って空気を変えようとしたのかな。
あれは新庄くんなりに気を遣ってくれた言動だったって訳か。
「もういいよ。わざわざそんなことを言うために追いかけてきてくれたの?」
「まぁ……」
照れくさそうに頬をかく。
もう、こういうところだよね。
なんだかんだ文句を言ったりするけど、最後にはフォローしてくれる。
私はそんな新庄くんの優しさに惹かれ……だーかーらー、改めて自覚してどうするのよ!
それじゃダメなんだって。
私は気持ちを振り払うように口を開く。
「新庄くんて意外と気にしいなんだね」
「意外って失礼だな。俺は繊細な男なんだよ」
「はいはい、そうですか。って、まだ仕事残ってるんじゃないの?」
「あ、そうだった。送れなくて悪いけど」
「だからそんなに気にしなくても大丈夫だよ。気持ちだけで十分だから早く仕事に戻って」
「おぅ、じゃあまたな。気を付けて帰れよ」
新庄くんは踵を返して、会社に戻っていった。
その背中を見てため息をつく。
諦めようとしている恋心に息を吹き返すようなことはしないで欲しい。
今の私には新庄くん優しさは辛かった。