嘘をつく唇に優しいキスを

「片想いは楽しい時もあれば辛い時もある。今は辛いかも知れないけど、それを乗り越えたらきっといいことがあると思います。これは私からのサービスなので、よかったら飲んでください」

「いいんですか?あの、ありがとうございます」

「唯香、あとは頼んだ。俺はちょっと奥に行く」

そう言うと、朔斗さんはカウンターの奥に入っていった。

「朔斗、照れて引っ込んじゃった。こういうこと絶対にしない人なのに珍しい。あのね、私も朔斗に恋をして胸の痛みを感じていたから麻里奈の気持ちは分かるつもり」

唯香ちゃんは優しく頬笑む。

「あのさ、よく緊張した時に手のひらに“人”という字を三回書いてのみ込んだらいいとか言うでしょ。それと同じような意味で、気休めかも知れないけど、朔斗はそのカクテルを飲んで胸の痛みを乗り越えて欲しいっていうことが言いたかったのかも」

私は唯香ちゃんの言葉を聞いて目の前のグラスをじっと見つめる。

「誰にだって幸せは平等にあると私は思っているから」

グラスを持ち一口飲んでみると、口の中にカカオの味が広がり、柑橘系の酸味もある。
程よく甘く、さっぱりして美味しい。

恋する胸の痛み、か……。
今の私にピッタリだ。
このカクテルを飲んだら今の辛さを乗り越えられるかも、と思えてくるから不思議だ。

朔斗さんや唯香ちゃんの気遣いに感謝し、それを飲み干した。
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