嘘をつく唇に優しいキスを

「桜井、ヘルプに来た」

救世主のごとく現れて、ハンドポンプで風船を膨らませ始めたのは新庄くん。
突然のことに驚いて目を見開いた。

どうして新庄くんが?
自分の担当ブースもあるのに大丈夫なのか聞きたかったけど、新庄くんは子供たちに向かって笑顔で声をかけていた。

「このお姉ちゃん、緊張して失敗しちゃったけどちゃんと作れるから安心しな。一生懸命練習してたし。それにお兄ちゃんも一緒に作るから。んじゃ、青色の服の君はどっちがいい?」

「ボクは犬!」

「了解」

二番目に並んでいた子のリクエストを聞くと、手際よく風船をねじっていく。
そして、あっという間に犬が出来上がった。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、お兄ちゃん」

新庄くんから犬を渡された男の子は嬉しそうにお礼を言って、両親の元へと走り出す。

「じゃあ、次の君は?」

「私も犬!」

「オッケー。ほら、桜井もさっさと手を動かせよ」

その言葉にハッとし、再び風船に空気を入れ始めた。

不安そうに見ていた子供たちを安心させるようなことを言ってくれたお陰で、ザワつきもおさまっていた。
チラッと新庄くんを見ると、並んでいる子供たちにと楽しそうに話をしながら犬を作っている。

私は無心で風船をねじり、なんとか犬が完成させた。
後ろに並んでいた子に次々に抜かれてしまったけど、ずっと私のそばで待ってくれていた女の子に手渡した。
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