嘘をつく唇に優しいキスを
「はい、遅くなってごめんね」
「ううん、ありがとう」
笑顔で受け取ってくれた女の子にホッと胸を撫で下ろす。
「お姉ちゃん、がんばってね」
去り際にその子からの励ましの言葉に泣きそうになりながらも「ありがとう」と笑顔で手を振った。
調子を取り戻した私は、完成した風船を並んでいる子供たちに渡していく。
最後の子に犬を渡すと嬉しそうに親の元へ走り出した。
まだ油断は出来ないが、どうにか山は越えた感じだ。
「取りあえず、落ち着いたな」
「うん、手伝ってくれてありがとう」
「別に礼なんていいよ。ちょうど手が空いてたし。それより久々に桜井がテンパってる姿を見たわ」
フッと意地悪く鼻で笑う。
せっかく素直にお礼を言ったのに、そんな態度をされたら台無しだ。
新庄くんはあっという間にバルーンアートを習得して、悔しいことに私よりも早く作れるようになった。
器用でセンスあるとかホント不公平なんだけど。
「髪、切ったんだな」
不意にそんなことを言われ、ドキッとする。
「あ、うん」
昨日、仕事終わりにいきつけの美容室に行った。
二十二時まで営業していて、仕事をしている人にとってはありがたい美容室だ。
肩まであったアッシュブラウンの髪の毛を思いきってショートボブにした。
毛先が痛んでいたので美容師の人と相談し、出来れば切った方がいいと言われ、バッサリ切ることにした。